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むらさきの、そら (たまには短編小説なんてどーだい?)

それはとても深い蒼い空の広がる日のことでした。

その少年、高校2年に上がったばかりの彼は、そんな蒼い空をぼーっと眺めておりました。
座ってもたれかかる屋上の壁は最初こそ冷たく感じたものが今や温く、
はて、最初こそ日陰だったそこは、いつしかすっかり日の光の当る場所になっていたのでした。

その屋上には違法建築だが何故か存在するプレハブの演劇部室があり、
彼はその演劇部の部員という一面も持っていました。
しかしこの日は部活は休みで、それでも彼はいつもの癖でそこに来てしまったのです。
来てしまってから、部活が休みだった事に気づき、
他に用事も無いから、と、多忙な日々に出来た一瞬の隙間に戸惑いつつも、
部活中の自分の指定席とも言えるこの壁に座り、夏の空を眺めることにしたのでした。

市で一番のマンモス高であるこの学園には複数の校舎があり、中学校も同じ敷地にありました。
マンモス高とは言えど、昨今の高齢化社会・少子化現象の影響は確かにあり、
建物の数に対して、学生の数は昔に比べて非常に少なくなっていたのでした。
彼が空を仰いでいたその4号棟は、学園中でも最も人の出入りの少ない建物なのです。
この日は演劇部だけでなく、全ての部活が休みでした。
おそらく、この4号棟そのものに今いるのは、自分だけだろうとさえ思えました。
風が遠くの街の音をやわらかく拡散してくれるのが大変心地よく、
この学生は、思わずそのまま居眠りを始めてしまったのでした。

ひとときの眠りは浅かったのか、目を覚ました彼は今が何時なのかを太陽で把握します。
夏の日は長く、まだ空は蒼く明るいのでした。
眠りに落ちる前は確かに涼しい日陰だったそこは既に日差しが当っていたので、
あと30分もすればそらは橙に染まっていくのであろう事は予感出来ました。

今がそんな時間であることを左腕のGショックをさっぱり見ずに判断すると、
彼は「はて、そういえばなぜ自分は起きたのだろう?」と小首を傾げます。
そして、いつの間にか空を見上げた反対側の横に、誰かが立っている事に気づいたのでした。
落とした視線の先には、流行も終わりを迎えようとしているルーズソックスが見え、
視線を上げると縞々模様の下着が見えました。
なるほど、この縞々は見覚えがあります。屋上は風が強いので、色々と見えてしまうものです。
これは同じ演劇部員のキノコです。キノコはもちろん本名ではありません。
小学校から中学校時代、髪型がそんな感じなので、彼は彼女をキノコと勝手に命名していました。
所謂、幼馴染というものです。

彼はそれ以上視線を上げず、縞々に向かって話しかけました。
「どーしたキノコ」
ポーズはそのままに、仁王立ちのまま、縞々の上から声が降りてきました。
「部活が休みだった」
「そりゃ運が悪かったな」

そんな事は知っている、とは思っても言いませんでした。
変にこの娘の機嫌を逆撫でしても、良いことは一切無いと長年の経験で知っていたのです。
こういう時は、運のせいにするのが一番良い解決方法だということも。

しばしの沈黙の後、おもむろにキノコが口を開きました。
「・・・暑いねぇ」
「そうか?俺はこのぐらいが快適だがなぁ・・・」
すぐにそう返しましたが、返事はありませんでした。

いつしか、夕焼けが始まりつつありました。
深く蒼い空と橙の地平線が溶け合い、紫色の空が生まれてきました。
彼は、この時間にこの場所でだけ見られる、この、複雑な色合いの空が大好きでした。
思わず「この空が一番好きなんだよなぁ。」と、独り言を言ってしまいました。

隣に立つ幼馴染は、年頃男子のロマンチックなひとことにツッコミを入れることも無く、
黙って、静かに、同じ空を見つめていました。
そして、間を置いて、
「ああいう空になりたいなぁ」と、小さな声で呟きました。
声は、彼の耳にも届いていましたが、特にその意味するところは考えもしませんでした。

夕焼け空が全体に赤く染まってきた頃、暗くなる前に帰宅しようと促し、
二人はいつものように、同じ道を帰りました。

翌週からは、夏休みでした。

ある部活の日、その休憩時間、彼は屋上以来久々にキノコと二人っきりになりました。
妙に神妙な面持ちの彼女が、ひと気の無いエリアでお弁当を出していたので、
彼はどうしたのだろうという単純な心配で、カップ焼きそばを片手に近寄りました。
冗談交じりに「どうしたー、キノコ・・・」と言いかけて、
こちらを見上げた彼女の真剣な顔を見て、彼女をキノコと呼んだのは間違いだったと気づきました。
(いつの間にか髪を伸ばしたんだなぁ・・・)と、
ほぼ毎日、部活や登下校で会っているのに、彼女が変わったことに初めて気づいたのでした。

普段はゆるい表情の自分を作っているのですが、
一瞬硬い表情をしてしまった事に気づいた時には既に遅し。
長年一緒にいた幼馴染同士、互いの考えがなんとなく伝わったのでした。
方や、恋愛関連で真剣に悩んでいる。
方や、恋愛感情を初めて持ってしまった。
しかし、今更回れ右は出来ません。

ぎこちない挨拶も早々に、とりあえず隣に座ってみる彼。
困ったことに、真っ先に彼女が語りだしました。

とある男子に付き合ってくれと言われているということ。
今は返事を返さず、ある理由で保留しているということ。
そのとある男子とは、どうやら共通の知人であるらしいということ。

彼は困りました。今、一番聞きたくない話題だったのです。
何とかしなければ、と焦り、作戦を練る間もなく、とどめを刺されました。
「私は、どうしたらいいのかな?」


真っ白でした。
その瞬間、彼は焦った自分が何と発言したのか、自分でもわかりませんでした。
ただ、記憶しているのは、
彼女が、泣きながら、「・・・バカ!」と怒って弁当も食わず、部活を飛び出して帰ったこと。
ただ、それだけなのでした。

それから、彼は、二度と彼女と会話することも、顔を合わせることもありませんでした。



─10年以上が経ったある夜。
ふと夢の中で彼は、その時の自分の発言をハッキリと思い出しました。
「確かに、バカだったなぁ・・・」と、ひとり苦笑し、おもむろに起きて夜空を眺め、
やっと今、彼女が屋上で呟いた言葉の意味を理解したのでした。
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